つくたま塾「日本農業遺産登録!比企地域のため池農法とは?」の報告

◎日時:2023年3月20日(火)19:00~21:00

◎講師:後藤真太郎さん(立正大学 研究推進地域連携センター長/地球環境科学部環境シテム学科教授)

◎参加者:**名

◎場所:さいたま市生涯学習総合センター 第1学習室(シーノ大宮9F)とオンラインのハイブリッド開催

◎タイトル:「日本農業遺産登録!比企地域のため池農法とは?- 風土共創 サト・マチ・ヒトのエコシステム」

埼玉県のふるさとのイメージである代表的な景観であるなだらかな比企丘陵。そのエリアが日本農業遺産に登録された。そのトピックのテーマをつくたま塾で取り上げた。
講師・後藤先生が使われたパワーポイントから当日の講演内容を辿ってみたい。

・埼玉県比企丘陵には300を超える谷津沼(ため池)があり、1500年にわたり、独特の農業スタイル「谷津沼農業」が営まれてきた。
・令和5年3月1日に、3回申請した後に、日本農業遺産に登録された。

https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_1_2.html

関係自治体は、滑川町、熊谷市、東松山市、小川町、嵐山町、吉見町、寄居町である。

〇 比企丘陵の3つのレガシーとは
①なぜこのような農業形態になったのか?―有利でもあり不利でもある地形条件が生んだ独特のシステム
②このような農業形態が水・物質循環にもたらす意義―農業用水・栄養分・土壌の循環システム
③谷津沼農業がもたらす人・生態系への恵み

・荒川が比企丘陵区域の北側から東へ、そして、南に流下していくが、丘陵部の標高が高く、荒川から水を引くことができなかった。そこで木目細かい丘陵を利用して谷津沼(ため池)を数多く築造した。ため池は、埼玉県に移住してきた渡来人たちの堤防をつくる技術によるらしい。吉見町における古代の道・東山道の発掘現場では古代の軟弱地盤工法である「敷葉工法」築堤が見つかった。江戸時代以降に全国的に新田開発が進み、この地域では谷津沼農業が広がった。
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〇 風土共創による農業遺産の維持
・谷津田を単位とした区域で天水をためた沼水は、高所から低所へと流れる水を繰り返し使っている。
・谷津沼の水を利用する循環システムは人の風土への働きかけであり、沼さらい・水番などの共同作業を通し、谷津を単位とする地域コミュニティを形成した。
・小字(「こあざ」、市町村内の行政的な最小のまとまり)がそれぞれの沼を管理する単位となっていた。このように沼を介して結びついている地域コミュニティはこの地域独自の文化を形成していった。
・こうした沼に堆積した落ち葉、土砂などさらうことを繰り返していたことで、鯉などの大型魚類を駆逐して、天然記念物「ミヤコタナゴ」を生育させていった。
・谷津沼農業は、大型農機具を活用する現代の農業システムとはまったく異なるので、農業従事者が減少していく現状をどう乗り越えていくのかが課題になっている。

〇 立正大学では、沼水農業の有機農業としての特徴を観察研究に取り組んでいる。ドローンを使って地形データを作成したり、稲の生育状況を観察して、ため池・土壌などからの窒素量を推計している。
・こうした一連の取り組みは、時の流れと人々の働きかけによって地域のサト・マチ・ヒトの種が成長していくような「生物文化多様性の発酵」と名付けられるだろう。

〇様々なプレイヤーによるネットワークが更に構築されていく。
・ここでも農業の担い手が減少していく傾向にある。谷津沼農業が無くなれば、長年培われてきた文化が消滅してしまう。
・農業を新たに関わりたいという人たちが増えてはいる。有機農業の盛んな小川町では年間300人の農業移住者がいるという。また、農福連携(埼玉福興株式会社の事例)により新たな就業機会を創り出す取り組みもでてきている。

・小川町オーガニックフェスタ、熊谷圏オーガニックフェスタなどの取り組みが始まっている。

〇 質疑応答、補足説明など
・現在、この地域では山林部における太陽光発電所(メガソーラー)の立地申請が急増している。かつての自然破壊の代表例として指摘されていたゴルフ場開発を上回る傾向だ。多くの住民たちは反対活動をして、環境影響評価を通じて強い反対を表明している。市町村、県の行政も対応する条例等を策定しているとともに、環境省に対して意見を述べて、環境省も開発業者宛に是正勧告を出している。
・耕作放棄地は、グーグルアースなどを見ても、少ない。全体としては綺麗に耕地整理されている。しかし、沼の真下の田んぼが放置され、荒れていることが増えている。地域住民・大学のプロジェクトで対応している。

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