2023年総会企画「生産緑地 2022 年問題とその後 ~都市農地の未来展望」の報告

 2024年11月22日に開催した都市づくりNPOさいたま総会では、一般財団法人都市農地活用支援センターの小谷俊哉様に、「生産緑地 2022 年問題とその後 ~都市農地の未来展望」と題してご講演を頂きました。その内容をご報告します。

「生産緑地 2022 年問題とその後 ~都市農地の未来展望」を聴講して

文責:若林祥文

 全国的な動向を把握し、自らも居住地で市民の農地のあり方に関心を持ち続けている小谷氏の話をお聞きして考えた。

 生産緑地2022 年問題は、恐れていた急激な生産緑地の減少はなかったものの、10年延長の特定生産緑地制度では恒久的な保全は定まらず、引き続き農地の都市緑地等としての位置付けを高めるための課題が依然としてあり続けている。

 埼玉県内の動向は、生産緑地のある 37 市のなかで、減少無し、90%以上の継続農地があるのは 11 市で、県南地域に多い。100ha を超えているのは、さいたま市が 198ha、川越市が 109ha である。
 講演の中でも、都市住民から、農業者からの都市内緑地としての農地や農地の多面的な役割や機能の実例が報告された。
 図2にあるように都市部で農地は多様な機能を発揮している。農業政策だけや都市計画だけの視点や施策では農地のあり方をカバーしきれないことが改めて認識された。氏は農地に関わるユニークな活動事例を紹介された。農地の所有者・耕作者の多くは高齢化しているので、10 年先をどう展望するかという議論が大事だ。それは農地を無くしても良いという方向ではなく、如何に私たちにとって不可欠な緑、自然、グリーンインフラ、緑・オープンスペースのある風景の心地よさを保全・創造していくことではないだろうか。

〇「都市部で多様な機能を発揮する農地」
全国各地における先進的な取り組みには自治体が主導するもの、民間企業が行うもの、NPO 法人など市民団体が主導するものなど、目的としては福祉や防災との連携を標榜するものなど多種多様である。だから、都市農地が重要なのだと指摘できる。図5・6では都市農業振興基本法で機能を定義しているが、人間活動を支える機能としては更に拡大・網羅される可能性もありそうだ。
紹介された豊富な事例から、さいたま市で参考になると思われるものをピックアップしたい。

A 名古屋 アグリパーク南陽:農水省が積極的に宣伝している。農園の名称が変更になっている。
・あいち緑育ネット体験農園は会員制で 1 年を通じて野菜作りを体験する農園です。
B 農福連携農園すぎのこ農園 所在地:杉並区井草 3 丁目 19 番 23 号(旧井草区民農園)
面積:3,240.6 ㎡
・杉並区が農福連携事業として取り組む「すぎのこ農園」は 2011 年に開設。杉並区では、農福連携事業の実施に向け、令和元年 6 月に「農福連携事業基本計画」を策定した。都市農地の保全と都市農地が持つ多面的な機能を福祉分野において効果的に活用していくため、農福連携事業基本計画の中で基本方針を定め、事業に取り組んだ。「障害者・高齢者等のいきがい創出や健康増進、若者等の就労支援、幼児の食育・自然体験など福祉施策等の実施効果を高める取り組みを実施します。収穫物の提供を通じて福祉施設等の運営支援等を図ります。区内農地の活用により、都市農地を保全し、都市型農業の推進を図ります。広く区民に農業を体験する機会を提供することにより、都市農地の持つ多面的機能に対する区民の理解を深め、区民とともにつくる農園を目指します。区内教育機関や産業団体等と幅広く連携し、交流事業を実施するなど、農福連携事業を効果的に推進します。

C みみコン eco 畑(小金井市) 面積:990 ㎡。都市農地貸借円滑化法(2018 年)活用
環境系 NPO と連携した民間企業が開設する市民農園。解説によると、「みみコン ECO 畑」は「2019 年 9 月 1 日にオープンしたミミズコンポストで家庭生ごみを生ごみをたい肥化して有機肥料とし有機栽培の野菜を、自給自足で安全安心に栽培する会員制 eco 畑」。
D 東京都農の風景育成地区「練馬区高松一・二・三丁目と南大泉三・四丁目」
東京都農の風景育成地区制度は生産緑地や農家の屋敷林・憩いの森などで一体的な緑の環境を維持していく地区を指定している。
・高松地区(35.1ha、うち生産緑地:4.9ha)は長年都市住民との交流活動をしている農家達が中心になっている「農の美しい風景」を自負している注目活動。
・大泉地区(70.2ha、うち生産緑地:5.2ha)は住宅地内に点在している生産緑地が多様な機能を担っている。
E 日野市新井地区「せせらぎ農園」年間来訪者数 約 4000 人。
都市住民が 10 年以上続けている主導する農のあるまちづくり活動。生産緑地の営農を援農したりして、食育・環境学習体験を幅広く行っている。日野市まちづくり条例に基づく「農のある暮らしづくり計画書」(2021 年決定)を作成したまちづくり協議会の母体である。
F 市民緑地認定制度(国土交通省)の活用事例
民間主体が、民有空き地を地域住民が利用できる緑地として設置管理する制度で、税の軽減措置等が講じられる。
・東京都墨田区でお寺の駐車場を NPO 法人が借り受けて、「たもんじ交流農園」を開設し、地域住民が利用できるコミュニティガーデンなどの緑地(約 700 ㎡)を整備した。
G その他の事例紹介は、
・「わくわく都民農園(小金井市)令和 4 年度から開設。
・柏市では、特別緑地保全地区と地上権設定を組み合わせて指定し、相続時に土地評価を最大限 98%にすることに取り組んでいる。

〇まとめにかえて
図⑦に小谷氏がこれからの都市住民と受け入れる農家等による農の展開イメージを描いている。
先日、私は大宮台地の先端にあるさいたま市見沼区片柳地区を自転車で数日かけて巡ってみた。地区の 3 分の一程度が市街化区域で、他は市街化調整区域で構成されているが、見沼田んぼに向かう舌状台地が織りなす風景をきめ細やかな人と農地、斜面林などが作り上げてきた。
たとえば、こうした地区で東京都農の風景育成地区や日野市新井地区のような具体的な場所を対象にして、図⑦を参考にそれぞれの主体や場所の特徴を踏まえた施策の展開を描くことができないだろうか。市街化区域内では良好な緑の豊かな環境を維持している農家が営む生産緑地があるし、調整区域では NPO 法人が伝統的な水田耕作や斜面林を維持管理している都市住民たちもいるが、最近では民間企業が耕作するネギ畑等が多数見受けられ、様々な運営方法をしている市民農園が点在している。
都市農地活用支援センターでは、都市農業やまちづくりなどの専門家を派遣する制度、「農」の機能発揮支援アドバイザー派遣事業を設けているので、相談できる。
また、まもなく、センターが主催してきた生産緑地研究会が長年検討してきた「市民緑農地」を政策提言する本「都市の農を考える 農的活動の新展開と市民緑農地の提案」が刊行される。

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