つくたま塾「メインストリート・プログラムの実績と日本での可能性」の報告

アメリカで唯一、成功事例となった中心市街地の活性化戦略mainstreet program101 をお聞きして
文責:若林祥文

 アメリカの中小都市の中心市街地ダウンタウンが衰退する現象に対して取り組まれたメインストリートプログラム(以下、MPと略す。)は同様の現象に悩まされていたわが国においてかなり注目されてきた。自動車交通の発達したアメリカでは戦前から中心市街地の衰退現象が発生していた。アメリカのMPが中心市街地の衰退問題を歴史的建造物という地域の誇りにシンボライズした点から始まり、様々な展開をしている現状を、つくたまの監事を引き受けていただいた松本さんがこの分野で長年にわたり研究と実務経験から取り組まれてきたので、お話をしていただくことになった。松本さんは深谷市在住で、2000年に始まった市都市マスタープランのWSに参加し、自分事としてこのテーマに取り組んでこられた。この文の作成に当たり、当日の松本さんが使用したパワーポイントを転載している。

なお、時間の制約もあり、お話はアメリカのメインストリートプログラムの最も基本的なことに絞った内容であった。この拙文では、他の情報も入れながら、整理してみた。特に、「中心市街地の再生メインストリートプログラム」(安達正範、鈴木俊治、中野みどり著、2006年、学芸出版社)を参考にした。この本にはデザインコントロールについての詳細な紹介を鈴木俊治氏がされているので、この分野に関心のある方は参照ください。

〇 アメリカでの取り組みは街中にある歴史的建造物が失われていく危機意識が根底にあり、1977年にアメリカ中西部でNational trustが行った調査から始まる。3つの都市に専門家を送り、3年間のパイロットプロジェクトを実施した。「経済の活性化を目指して、地域の価値を高め、投資を呼び込む必要」がある。それを受けて1980年に本格的に取り組んだ。態勢の整備、事業の進め方などMPの枠組みが固まった。また、MPは地域の主要な道路を含む数ブロック(街区)から構成される日常生活の生活拠点エリアである。大きな自治体では複数のエリアがある。

 

〇中心市街地は地域の誇り、特に歴史的建造物がその象徴だという共通認識。そこから出発して成長していくダイナミズムを引き出していく。お話の冒頭で、アメリカのメインストリートを紹介する映像が映し出されたhttps://www.mainstreet.org/homeので雰囲気を味わってほしい。アメリカ人がよく口にするsense of place、ノスタルジーも含む人生にとって色とりどりの舞台の場を大事にしている。ダウンタウンは地域のシンボルであり、新しいビジネスのインキュベーターの場、何よりも大人たちの社交の場であるという。

・この時点で、わが国で現在試行錯誤している公民連携が強調されていることに注目したい。

メインストリートプログラムにおける包括的なダウンタウン再生手法4つのポイント

〇国・州・市町村のそれぞれの固有の役割がある。連邦レベルではNationalTrustから独立して、シカゴにセンターが設立された。州政府とも連携してMPの認定を行う。州レベルにはコーディネート組織があり、41の州と5つの都市圏に設立されている。地域レベルでは2022年現在1220の組織がある。

この仕事に従事している人たちは専門家としての見識や一定の収入を得て、腰を据えて取り組むことができる体制がある。松本氏のお話で今回、特に力点を置かれていたのは、組織のあり方と人の待遇である。これらの点が我が国との大きな違いだ。つまり、我が国においてもこれまで中心市街地の再生は縦割りの法律等の体制で、補助金という持続性の乏しい資金援助で、創造的なやり方を後押しする制度ではない。特に、現場で創造的にかつ持続的かつ包括的に働く人や組織を育てていない。また、州レベルでの横断的で専門的にコーディネートする組織の存在があるということは力強い後押しだ。

〇MPの認定基準は厳しい内容

・各地域で活動する組織を認定することで社会的な信用力を付与し、独立して活動できる自信と活力を生み出す条件を整えていく仕組みは重要だ。わが国においても個別法に基づく法人認定(例:景観整備機構、都市再生推進法人など)があるが、個別法の枠組み内で活動しており、地域の多面的な課題に柔軟に対応しているとはいいがたいという印象を持つ。MPでは予算の確保、専門スタッフの雇用は必須で、エグゼクティブディレクターは年収1000万円程度、NPO法人が約90%。

・2021年の実績は、7000億円の投資額を呼び込み、30000人の雇用を生み出す。建物の修復件数は10505件。

◎現在の課題への対応

・それぞれの地域で活動している法人が長年の取り組みを点検して、新たな課題を発掘していくことは大事なことだ。8つの原則はそのためのチェック項目や振り返る視点を与えている。 毎年開催される全国的な大会は共通認識を再確認し、新たな情報を交換したりする重要な機会だろう。

・ここに述べられていることは、決して新しいことではないが、我が国においては今だ実現していないことではないだろうか。

・「サイロ化」という言い方がアメリカの中小都市が農村部との結びつきを前提にしているようで面白い。

・パワーポイントにある課題は事業を進めていって振り返る時にほぼ指摘される項目だと思える。それらをひとつひとつ答えて、次の変革戦略の展開に取り組む。

〇このMPはこれからも注目していきたい取り組みだ。最後に、松本さが企画されている「藻谷浩介と行く6泊8日 アメリカ・中西部アイオワ州メインストリート・プログラム視察ツアー」。ご興味のある方はご参加をしてください。

・また、4月15日に「メインストリート・プログラムはまちづくりの総合戦略だ」を出版予定です

アマゾンで購入できます。(書店には並びません)定価1,980円。

参考文献:「中心市街地の再生 メインストリートプログラム」(学芸出版社 2006年)安達正範、鈴木俊治、中野みどり著

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください