つくたま塾「北浦和にコミュニティを創る~コミューンときわの挑戦」の報告

◎日時:2019年9月11日(水)19:00~21:00

◎講師:船本義之さん (株)エステート常盤・代表取締役

◎参加者:27名

◎場所:エステート常盤 会議室

◎タイトル:「北浦和にコミュニティを創る~コミューンときわの挑戦」

参考>> コミューンときわ 公式ホームページ

 

JR北浦和駅の西口から、西へ歩いて10分ほど。イオン北浦和店と道を挟んで北側の敷地に2020年初頭の竣工へ向け、新たな賃貸住宅の建設が進んでいる。今回のつくたま塾の講師である船本さんが代表を務めるエステート常盤が仕掛ける、「コミューンときわ」だ。

柔らかな語り口、穏やかな表情の奥に、ほとばしる情熱が見え隠れした船本さんのお話と会場との対話の様子を振り返っていきたい。

 

冒頭、船本さんが出資者として参加した、東日本大震災から復興を目指す釜石との関わりが紹介された。

配当は「感謝」という、目に見える見返りを求めない出資の形を通じて復興に携わる様々な人たちの取り組みに触れながら船本さんが考え続けたことは、人々が生きるための「希望」についてだった。

穏やかながらも船本さんの言葉に熱が帯びていく。玄田有史さんの著書「希望のつくり方」の引用し、「3人わかってくれる人がいれば大丈夫」「夢持ったまま死んでいくのが夢」という、聞く側が自らの日常と照らし合わせ思わずハッとしてしまうような言葉が並ぶ。玄田氏の「希望学」で語られるキーワードである「ローカル・アイデンティティ」についても話が及び、地域社会における希望のあり方が示唆された。

船本さんが引用したもう一つの本は、藻谷浩介さん・NHK広島取材班によるベストセラー「里山資本主義」。地域の資源を有効に活用しながら人間関係を丁寧に結んで暮らす人々を紹介し、マネー資本主義へのアンチテーゼを展開する藻谷氏は「持つべきものはお金ではなく、第一に人との絆だ」「持つべきものの第二は、自然とのつながりだ」と説く。「田舎の手間返し」に代表される、「温かみのあるコミュニティ」が必要ではないか。釜石から始まり希望とは何かを考え続けてきた中から生まれた、これらの気付きを通して、船本さんは自らの仕事のフィールドへと想いを昇華させて行くことになる。かのベストセラーは「里山資本主義」だが、北浦和で何を出来るかと考えた船本さんは、「人里資本主義」というコンセプトへ行き着くことになる。

船本さんにとって、コミューンときわは「人里資本主義のためのnest(=巣)」だという。

想いを巡らせて事業を考えて行く時には伴走者、平たく言うと「仲間」が必要だ。筆者は今回のつくたま塾に先立ち、7月に北浦和のクラフトビール店「BEER HUNTING URAWA」で行われた「うらわ横串ミーティング」にも参加しており、その時の様子が印象的であったので、その話も少しさせて欲しい。コミューンときわのデザイン監修をしている「まめくらし」(https://mamekurashi.com)。その手の世界では超の付く有名人である青木純氏が代表を務める「くらしを育てるカンパニー」だ。イベントでは青木さんも登壇し、氏が手掛けた「青豆ハウス」「グリーン大通り・南池袋公園」や「高円寺アパートメント」など、都市生活においても人々が生き生きと良好な人間関係を育んでいくことの価値について、熱く語っていただいた。船本さんは、青木さんが主宰する「大家の学校」(https://mamekurashi.com/school/)の受講生であり、そこで得た経験がコミューンときわを企画する原動力になっていることは間違いないだろう。多くの受講生を「卒業」させていった青木さんが、「船本さんの勇気を、うまく行かせたい」と開口一番に力強く語っていた言葉を聞いたとき、大切な仲間を手繰り寄せたのは、船本さんの情熱そのものだと感じずにはいられなかったのだ。

話をつくたま塾に戻そう。

コミューンときわは525坪という広大な敷地に対して住戸数は55と抑制し、その分を中庭や屋上庭園、スタジオ、店舗やSOHOといった、住民だけでなく地域の人々にも多様な振る舞いを出来るように「開かれて」いることが大きな特長だ。屋上庭園で根を植え収穫したり、中庭では夏祭りを開いて地域の人々にも来てもらう。スタジオでは住民のみならず、地域の多様なサークル活動も展開されることを想定している。小学校から帰ってきた子どもたちにとっては、安心して走り回れたり、あるいはスタジオで学童クラスのような工作をしてみたりということも出来そうだ。

カフェを想定した店舗区画には敷地いっぱい出来る限りデッキを張り巡らせ、さらには中庭ともシームレスに接続される予定とのことで、お店の前の道路(=パブリックな場)と中庭(=セミパブリック、とでも呼ぼうか)とを結ぶパースペクティブが、一般的な境界を軽やかに切り崩し、融合させていく姿が目に浮かんでくる。

コミューンときわには「管理人」がつくが、その重要な役割は住民のコミュニティを黒子として支え、住まいをハード面だけでなく、ソフト面でも関わることにある。「住まい手に共感して欲しいこととは」という会場の質問に、船本さんは「シェアハウスではない意味を考えたい」と答えた。通常、シェアハウスは規模にもよるが20戸程度でないとその場所ならではの独自性を出せないという。確かに、「英語取得を支援」「シェフが集う」など、ある種のセグメンテーションをすることがシェアハウスのオリジナリティーを担保する仕組みなのだと気付かされた。一方、コミューンときわは55戸。こうなると、狭めるよりも様々な世代や職種、考え方を持った多様な人たちが認め合えるコミュニティをつくっていく、そんな大局観に価値を見出すことにこそ、価値がある。同時に、それをやり遂げるのは生半可な覚悟では真似は出来ないだろう。

船本さんの想いは、まちにもつながっていく。この住宅は地域の金融機関で資金が調達され、地域の設計事務所で設計が行われ、地域の工務店が工事を請け負う。地域の工務店が工事を請け負うということは実際に工事で手を動かすのも地域の職人さんになる。つまり、この住まいに身を置くということは、地域経済を担う一員になる、ということでもある。お金が地域で循環することを大切にしたい、という船本さんの思想がこんな一面にも現れている。また、北浦和という地のポテンシャル、そこにある価値を再解釈することにも船本さんはチャレンジしている。「文教都市」「浦和画家」「サッカーのまち」という地域を彩るカルチャーを大切にしながら、ベッドタウンとしてでななく、この地で自ら志を持って生業を起こす人を支えたいという船本さんの想いが溢れているのだ。

住まいとしての豊かさを感じ、「住んで良かった」と思ってもらえないのであれば、そもそも建てる意味が無い、と清々しくも力強く言葉を紡いでくれた船本さんの周りには、来年以降、多くの笑顔が集まっていることだろう。そしてその輪がつながり、矜持ある温かな大家さんが地域にもっと増えてくれることを願わずにはいられない、そんな想いを新たにさせてくれるのだった。船本さんの取り組みに、大いなるエールを送りたい。(文責:福田 雄亮)

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