つくたま塾 2018年6月14日(木) 19:00~21:00の記録
◎講師:稲垣有以知さん(株式会社中央住宅 戸建分譲設計本部)
◎参加者:18名
◎場所:さいたま市生涯学習総合センター 9F・学習室2
◎タイトル:「蔵の再生と景観協定・民間からのまちづくり」
○越谷ゆいまーる(2007年) 越谷市内の8戸建分譲
- 8棟が内向きにコミュニティスペースを囲み持つレイアウトを採用し、コミュニティスペース(地役権の設定した共有地)を持つ初めての分譲物件の試みをした。
- 建築協定(景観協定が制度として整っていない時代)の導入、植栽の共同管理の内容だが、販売に苦労した。
- 顧客は土地区画が明確になっていないとだめだ。自分が所有する土地を出し合って共有地を形成するという考えになじまないようだ。
- そうしたことを営業担当もうまく顧客に説明できなかった。
○オランジェ吉川美南(2011年) 87棟戸建分譲団地
→オランジェ吉川美南
→オランジェ吉川美南地区景観協定の概要(埼玉県HP)
- 景観協定を導入し、個人所有の外構をコントロールして街並みを形成した。
※他社との差別化、資産価値の維持(当初の街並みを守る)、コミュニティの形成、海外事例に学ぶ
- 当時は吉川市が景観行政団体ではなかったので、県と景観協定の適用を相談した。
- 特徴的な内容について
→フットパスや共有樹(みんなの木)を入れて、個人所有地の外にもコミュニティ形成の媒体となることを期待した。
→みんなの木には実のなる木(みかんなど)を選定して収穫に合わせたイベントに期待した。
→門灯・玄関灯を点けて夜明るく防犯性の高い街並みを形成した。
- 景観ルール=アンテナの形状ルール、バルコニーのルール、ウッドデッキ&オーニングのルール、5本以上の高・中木の植栽した。
※アンテナのルールは不満が多く、後の物件ではアンテナは除外した。
※越谷結まーるに比較して、吉川美南は共有地の設定がない分顧客に抵抗感がなく、景観協定の導入に興味を持つ顧客層を捉えた。
※景観協定の運用に関して、分譲から2年間は販売業者(中央住宅)がサポートした(過去の建築協定・景観協定付き物件の反省を踏まえて)。植栽管理のためのワークショップを開催した。
→2年間のコミュニティ形成と維持管理につながるイベントカレンダーを作り、エリアマネジメントのソフトを入れた。
→87世帯のうち、参加する世帯(人)としない世帯(人)が分かれてくる傾向があるので、ニュースレターを発行して情報を流し続けること重要だ。
<苦労した点・反省点>
- 協定内容を理解して説明できる営業マンの育成=売りたいかな、の営業トークだけでなく、しっかり内容と意味を含めて顧客に説明できること。
- 中央住宅がお膳立て、お世話をしすぎてしまい、ホスト(中央住宅)とゲスト(住民)の関係を生じさせてしまった(ワークショップの場面)。
- 居住者の集まりの参加率が時とともに低下傾向(委任状提出世帯の増加)している。
- 購入者が転勤した結果、賃貸借家となっている物件の庭の管理(借家人はなかなか植木の世話をしない、手をださない)がむずかしい。
→賃貸借家物件をモデルにして、植木の手入れ見本を住民に見せるという工夫で管理をしている。
- 景観協定にかかる運営費として住民が世帯あたり500円/月を負担(分譲当初)
○松戸市 小学校・中学校跡地の99棟戸建分譲団地
- 吉川美南の反省を生かして、景観協定管理を早い段階で住民にバトンタッチするようにした
→2年間のお世話(イベント企画とコスト負担)はしているが、住民間の連絡調整などは住民側に任せた。
- 井戸を掘り、共同植栽管理で使える水源を確保した(防災井戸を兼ねる)。
○ことのは越ヶ谷 蔵のある街づくりプロジェクト 4棟戸建分譲
- 住宅開発用地として2013年に取得した土地にあった蔵のある建造物(米蔵、糟倉、内蔵)をできるだけ活かしたいという社長の意思
- 状態のよい内蔵を曳家して保全活用する案
→どのような用途で残すか? 4世帯の集会施設では負担が大きく維持が難しい
→蔵を再生した上で越谷市に寄贈し、まちなみ相談所(外部の人も使えるカフェ&集会所)として運用というスキーム
※蔵の再生に多大なコスト負担(蔵の再生には中央住宅外部の技術が必要だった)
※保全再生にかかる曳家工事の際、近隣の小学校の子どもたちに参加の機会を提供
※戦時中、空襲の目標とならないように黒く塗られた外壁を、今回の開発に合わせて白く再生
- 越谷市で初の景観協定を締結(4世態で運用)。2016年に分譲した。
→単価5千万円台の分譲になったが即売できた。
→和風の外観が影響したのか日本人は40代以上の購入者が多い
○はかり屋
- 中央住宅が日光街道沿いの歴史的建造物を含む土地建物を購入し、それをリノベして貸店舗として事業化した。
(通常であれば更地にして新築物件を分譲するような土地であった)
<まとめ>
- 土地所有に「共有」設定してしまうと難しくなるが、景観協定を活用してコミュニティ形成を促すような戸建分譲団地には手応えを感じている
- 薄利多売のパワービルダーとは一線を画して、よい街並みを作り残していきたいという会社のスタンス・意思が貫くことができた。
- 空き家の問題を考えるとき、住み手が愛着をもって次世代に住み継がれるこ(親の建てた家に子世代が戻ってくる)とを目指したい。
- 景観協定物件は、ずっと継続して付き合っていかなければならない(手離れできない)
→一方で、リフォームなどに仕事がつながるとも考える。
- しかし、中央住宅の開発で景観協定を仕込むプロジェクトは数パーセントにとどまっている
→一団地でまとまった開発が可能でないと計画できない
→条件が許すのであればできるだけこの方式で開発したいが、社内的にも手間のかかる方式のため、社員の受けは必ずしもよくない。
- 建築協定は建築指導課、景観協定は都市計画課の管轄で自治体内部で分かれており、景観協定は行政に経験・知識が不足している実態がある。
- 協定の運営委員(住民組織)は、回り番で変わっていくため、協定に積極的な人の時はいいが、否定的な人が当たったときに運用が心配だ。
→協定の初期期間は15年(協定切れをした場合の更新はその段階で意思決定が必要)
→15年の協定期限はちょうどリフォームニーズが出てくるタイミングに重なる
※分譲地の中に何かしら住民が集まる縁となるものを作り込み、コミュニティの形成を仕掛けることが重要と考えている。
※自治会の区域どりとの関係も重要(一団地として班を形成するなど)。
(文責:若林)